2008-03-01から1ヶ月間の記事一覧

ボブの人生

「ちょっと待て」のポーズで、ボブが固まっている。 ボブは「バーガーキング」の店長で、大学では修士過程を学んでいる。 ガールフレンドのエレミーの新しい髪形に彼はすこし不満だが、もうすぐ結婚する 予定だ。 「ちょっと待て」のポーズで、ボブが固まっ…

一日乗車券の旅

サンフランシスコから地下鉄に乗って、ニューヨークまで。 途中のロサンゼルスで東西線に乗り換える必要がある。 おや。ここはどこだ。しまった。メキシコじゃないか。乗り過ごしたか。 しょうがない。湾岸経由でフロリダまで行くか。 地下を出て、ローカル…

オールディーズ

なんということだろう。 海が無くなってしまった。 水が無くなったかわりに、砂浜がずうっと、 水平線のあった向こうまで続いている。 ・・・こりゃ、南の島まで歩けるんじゃないか? なんということだろう。 宇宙が無くなってしまった。 宇宙が無くなったか…

追求2

「こんな賃金で、やっていけると思ってるのか!!」 労働組合長が怒鳴る。 鉢巻を締めた組合員が、背後にならんでいる。 経営者側は、一様に苦虫をかみつぶした表情でうつむいている。 「あんたらばっかり、ぬくぬくといいもん食べて!!」 どん、と組合長が…

追求1

世をはかなんで、若い娘が豆腐のビルから飛び降りる。 自殺者の体が地面に激突した衝撃で、豆腐のビルはぐずぐずと崩れてしまう。 舗道にあいた人型の穴から、若い娘が立ち上がる。 「また死ねなかった・・・」 とつぶやきながら、春色のカーデガンや髪につ…

トウキチさんのコンサート

どんよりと雲の覆う海。 一面が暗い灰色で、ときおり舞う海鳥も、ねずみ色だ。 砂浜だけは、あかるい肌色に光り、浮かび上がって見える。 トウキチさんは、砂の中からレコード・プレーヤーを掘り出したところ。 蓄音機ではないが、そうとう古い。やぼったい…

地下オーロラ

このマンションは、200年前に土砂崩れで埋まった。 それでも住民は住み続けているが、地上へ出たことはない。 今日は、管理人の号令で、マンションの一斉清掃をした。 廊下から、共同スペース、各家庭の部屋まで、きれいに磨き上げた。 地下なりに、サッ…

趣味

イタズラ心をくすぐる屋根に、誰かいるようだ。 女心をくすぐるはしごを立てて、登ってみる。 誰もいないなあと思っていると、誰かに下から、はしごをはずされてしまった。 これじゃあ降りられない。 下にいるやつは、好き放題に家の中を荒らしているようだ…

父との対面

あれほど威圧的だった父が、今はちいさく、冷たいモノになってしまった。 そして、静かに安置室の簡易ベッドの上にいる。 さいごに何か食べたいものはないかと聞くと、とてもおだやかな笑みを浮かべた。 そして、ゆっくりと顔を横に振った。 絶望とも、寛容…

流転する世界

夜。 つまらない気分で、テレビを見る。 つまらない番組ばっかりだ。 音楽でも聴こうとCD棚を見るが、聴きたいものがない。 俺って、つまらないCDばっかり買うんだなあ。 友達から電話。楽しい気分になる。テレビも、楽しい番組が始まった。 いい感じだ…

宅配

道を歩いていたら、宅配のおじさんに抱えられ、トラックに押し込まれた。 気がついたら、一軒のおうちに届けられていた。 そこの奥さんは俺を受け取り、サインした。 「どうもどうも、けっこうなものをいただきまして」 奥さんは、だれかに電話でお礼を言っ…

俺の魂

子犬が、じっとおすわりして、こちらを見つめている。 なんとつぶらな瞳だろう。 皮肉なことに、子犬のほしいものは、俺の魂なのだ。 あげられないよ。あっちへお行き。 しかし、とうとう根負けしてしまった。 あの瞳に負けたのだ。 子犬は、うれしそうに俺…

見てはいけない

女房が、言う。 「私がいいと言うまで、この部屋の中を覗いてはなりませんよ」 承知したものの、やはり気になってしょうがない。 あれだけ美しい反物を、どうやって織っているのだろう。 障子を薄めに開けて、覗いてみることにするが、・・・なんとまあ。 中…

第四ビーチ病棟

俺の入院している病棟は、南国の海岸にある。 海の見える病室、なんかではない。そのまんま、砂浜なのだ。 ベッドは無く、なだらかな遠浅の浜が、どこまでも続いている。 波の打ち寄せてこないところを選んで、寝そべるのだ。 なに、波をかぶったところで、…

扉を叩くもの

やさしかった母さんが、死んでしまった。 ぼくら兄弟3人を、手塩にかけてここまで育ててくれた母さん。 感謝しているよ。母さん。 棺桶は、荼毘に付された。 あの鉄扉の向こうで、母さんは骨になっていくんだ。 兄弟の胸を、なんともいえない想いがかけめぐ…

門と群集

巨大な門のまわりには、ひとだかりがしている。 分厚い木の門はぴったりと閉ざされ、門番の怒鳴り声が響いている。 「だめだ。門の通行許可証の発行は抽選だ。受付表に記入して並んでいろ」 困ったぞ。夕方までに向こうに出向く用事があるのに。 これでは、…

宇宙と地球

宇宙船の窓から見える、地球。 青くて、丸い星。 あんまりはっきり見えるので、手に取れるような感じがする。 手をのばしてみたら、つかむことができた。 以外と手に取れるものなんだなあ。地球儀を見るように、地球を転がしてみる。 ここらへんが、航空宇宙…

アングラ

歯医者の先生が、口の中を模型にして見せてくれた。 下あごの歯並びが、まるで渋谷の町並みのようだ。 上あごの並びは、まるで天地逆になった新宿のよう。 これでちゃんと噛みあうのが不思議に思える。 「まっしろなビル群はどれもじつに清潔だが、角が尖っ…

知識のゆくえ

図書館の中に、ちいさな竜巻が起こる。 竜巻は、書棚のあちこちから本を引っ張り出しては、渦へ巻き込む。 そして、ものすごい回転力で、たちまち全ページ読んでしまう。 読み終えた本は、てっぺんの穴からつぎつぎと吐き出されるのだ。 吐き出された本の内…

宝島

長年の苦労が実り、ようやく宝島の地図を手にいれた。 地図は、さる富豪の蔵の、床面に描かれてあったのだ。 すばやく紙に写し取る。 そしてさらに長い探求の時間をかけ、ついに宝島へたどりついた。 目の前に広がる、桃源郷。 金銀財宝の山。 期待をはるか…

女か?虎か?

王は、若者に難題をふっかけた。 「ここに、ふたつの扉がある。ひとつの扉の向こうには、若い女がいる。 しかし、もうひとつの扉の向こうには、腹をすかせた虎がはいっているぞ。 さあ、どちらでも、好きな方を開けるがいい」 王女は、考えた。 虎のいる扉を…

改良の余地

仕事から疲れて帰る途中、ほの暗い街灯の下で、ひとりの女に目を奪われた。 女は、異様に大きなマスクをしていたのだ。 なぜ、こんなに大きなマスクを・・・? 疑問が頭の中をぐるぐる。 女は、こっちへ近づいてくる。 「みせてやろうか」 見たい。でも、見…

ユリイカ

眠る男の顔は、わるい現実を見ているようだ。 長い髪とひげが海のように波打って広がり、いまにも溺れそうな事態。 サイレンが響いた。 光り輝く消防士が、緊急出動バーをつたって男の頭の中へ、滑り降りる。 ハッとしたように立ち上がる男。 そうだった。思…

遠い補習

25m泳いで顔を上げると、そこにあるべきプールサイドが、無い。 一面、まっしろな砂浜になっているではないか。 水から上がって、歩いてみる。足の裏に、灼けた砂が熱い。 もういちど水に入り、25m泳ぐ。 顔を上げると、そこはちゃんともとのプールサ…

隊員の夏

ゴリラが、奥の部屋から何か持ってきた。 丸ごと一個の不発弾だ。 お気に入りの岩に腰かけ、不発弾を食べ始めるゴリラ。 鉄の表皮を無造作に一枚ずつむしり取っては、口に入れる。 格子の入った窓から、さんさんと明るい日差しが注ぎ込む。 ゴリラの片足は、…

浜の悪夢

行列が、ずっと続いている。どこが先頭なんだろう。 海辺の漁師町。ひくい瓦屋根の間を縫うようにして、人々が並んでいる。 この坂道の先は、浜辺だ。 かんかん照りの日差し。 列に並ぶ人たちは、すごい汗だ。 一緒に来たガッツ石松に並んでもらって、先頭を…

プチ体験

ハッと気付くと、高いところから見下ろしていた。 道路の真ん中に誰かが倒れている。よく見ると、それは自分だった。 そうか。俺は今、幽体離脱の状態にあるんだ。 はやく肉体に戻らなければ。 そう思って、あわてて下に降りる。 倒れている自分に駆け寄り、…

はじめての海外

霊界航空の格安チケットで、マウイ島旅行。 はじめての海外だ。空港って、大きいなあ。 チケットサービスを通って、手荷物カウンターを通って。 いろいろ窓口を通るんだなあ。 ボディチェック済ませて、出国審査に並んで。 まだかなあ。 エア・バスで、出発…

眉毛

庭の隅っこでしょげていると、肩をポン、と叩かれた。 見ると、猫だ。きりりとした太い眉毛が、マジックで描かれてある。 「しっかりしろよ」 そう言いおいて、猫はジャンプ。 塀の向こうへ姿を消した。 わかってるさ。 公園へ行き、ベンチに座る。 地面のア…

喪失

いたはずのない兄から、電話がかかってくる。 買った覚えのないCDが、棚にある。 つくった覚えの無いおでんが、冷蔵庫に入っている。 どういうことだ? 玄関を出ると、飼っているはずもない犬が、散歩を催促する。 街では、会った記憶のないひとから、「ひ…