あっちへ

どうもこの数日、いろいろなものがはっきりしてきてしまい、
もうこの世界で明日が昨日になろうが、
いっしょに歩いていた犬が知っている誰かに変わろうが、
鏡に映るのが自分じゃなかろうが、当たり前になってしまった。
それより、見えない世界の方が格段にゴージャスだという。
あっちのほうが、目に見えるものよりはるかにリアルで、
絶対的に多数なのだからと。

そして書き手はどこかあっちのほうへ行ってしまい、
残されたわれわれは、なんとも不幸な檻に取り残されてしまった。

それでもしばしば手紙は届いて、
内容は実用的な観察と考察、推論ばかりだ。
それも、とってもハッピーな。

これはこれでいいのだけれど、
行ったっきりでは、らちもあかない。
体半分あっちでもいいから、半分だけでも還って来てくれと。
連れてってくれとも言わないが。
こっちもなんとかしてくれと。


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