2008-02-01から1ヶ月間の記事一覧

春の夜の夢

仕事の帰り、いつもと空気が違うのに気付く。 ・・・なんだろう? 足は、なぜだかいつも通る道をはずれ、森林公園の中へ。 水銀灯が、ところどころに青い明かりを落としている。 丸太を組んだジャングルジムの下に、だれか居る。 その手前の暗がりでは、ベン…

だめだよお

夜道。だれかが、ぐいぐい押してくる。ぐいぐい、ぐいぐい。 よせよせ。押すなよ。 押されたら、やっぱり押し返すよね。 そりゃあ押し返すさ。ああ。押し返したとも。ぐいぐい。ぐいぐい。 そんな感じで押してたら、面白くなっちゃって。 どんどん、どんどん…

春の気配

「今夜は泊まっていくんでしょう」 彼女が言う。束ねていた髪をほどくと、クセ毛がふわりとひらく。 そうだな。もう一本ビールがあればな。 ここ数日、あたたかくなってきている。窓を開けたままでも寒くない。 夜風が、花の香りを運んでくるようだ。 ビール…

ココナッツにやられた。

いやはや、南国の人は気楽そうだと思っていたのだが。 お土産屋さんで買ったアロハを来て、ホテルの外を歩いていたのだ。 そこへ、地元のガタイのいいごろつきが、俺のえりをつかんだりしたのだ。 そんなとき。 すれ違った小麦色の肌の娘が、頭にのせたフル…

赤道の物語

九十九里の浜辺で浮輪につかまって遊んでいたら、潮に流されてしまった。 そして、たどりついたのは赤道。 本当に赤い帯が海上に浮いてるとは思わなかった。 本当だってば。プラスチックのブイがずうっと東西に続いているのだ。 船はこない。どうせ、赤道に…

無人島作法

ひどい嵐だった。 浜辺でわが船は、木っ端微塵の残骸をさらす。 助かったのは俺ひとりのようだ。 半日足らずで一周できる、ちいさな島。 誰も住んでいない。無人島にひとりぼっち、というやつだ。 なにか無いか探してみたが、これといって生活に役立ちそうな…

忍び、危機一髪

天井裏から、節穴越しに部屋を見下ろす。 あいつがここの藩主だな。 こちらに背を向け、どうやら晩酌の最中らしい。殺るなら今か。 ごそごそごそ、と誰かが這ってくる音。びっくりしてそちらを見る。 「あちらのご当主様からです」 ウエイターが、シャンパン…

よろい武者の湖

深い森の中。一瞬にして、風が停まった。 たちまち、あたりは濃い霧に包まれる。 ぶおおおー。あれは、ほら貝の音か。 べべべん、べべん、べん、べべん、べべん。琵琶の音が響く。 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ。霧のかなたから、大勢の足音が近づいてくる。 ぼん…

領主のワイン

手癖の悪い領主。女中をたぶらかしては殺め、井戸へ放り込む。 いつしか井戸は満杯。しょうがないから、もひとつ井戸を掘る。 またその井戸も満杯になり、さらに次の井戸を。 年を経るうちだんだん井戸は増え、屋敷の庭は井戸だらけに。 ある日、家臣が報告…

心配性の最期

実に細かいことに対して心配性な俺は、今まさにわけのわからない魔物に追われている。 とにかく、やつのツメはとんがっていて危ない。 魔物自身にとってもあれは危険だろう。朝、顔を洗うときとか。 商店街を駆け抜け、自転車屋のわきの路地に駆け込む。 そ…

セメントと科学

セメント樽の中から手紙が出てきた。 これを書いた女工はセメント精製所で働いている。 ある日、砂利の粉砕機を担当する恋人が、機械の中へ落ちてしまったそうだ。 そして、この樽の中に入っているのが恋人の粉末なのだという。 なんだかやるせない話だ。 か…

恐怖体験

俺はバスを待っていた。 うしろは建設現場。鉄の目隠し壁がそびえている。 もう夜なので、作業は終わっていて、静かだ。 なにやら視線を感じたが、鉄壁はずっと向こうの方まで続いていて、 この歩道にも自分のほか誰もいない。気のせいかな。 ようく見てみる…

リカちゃん電話・最新版

霊界リカちゃんが、とうとう携帯電話を導入した。時代を感じる。 ここ数日は、メールを打ってくるのだ。 「もしもし。あたしリカちゃん。 今あなたのうしろにいるの (^0^)/」 こんなに楽しんでいたのか。 人気ブログランキングへ

日本で、よかった。

「二階へどうぞ」 もんじゃ焼き屋の一階は、子供でいっぱい。 おばあちゃんが急な階段を上がって行く。 後について上がると、二階が目を見張るほど広い。 畳敷きの間が一面に広がるさまは圧巻だ。 「旅館の大宴会場みたいだな」友人も驚いている。 こういう…

謎の足跡

昨夜はひどい夢にうなされた。 朝になって目を覚ますと、ベッドの回りに、泥の付いた足跡が無数に残っている。 よく見てみれば、一人の人間が裸足で歩き回ったものらしい。 このベッドの足元から始まって、頭の方へ行き、引き返してまた反対側へ。 それを1…

進まない道

冬枯れの道は、殺風景だ。人々は、からっ風から身を守るように、早足で歩く。 駅に向かって歩いているのだが、さっきから全然進んでいる様子が無いのはなぜだろう。 右手の公園はずっと同じだし、向こうにある教会の尖塔も、一向に近づく気配が無い。 前を行…

和尚さんと餅

山寺の和尚さんは、夜中にこっそりひとりで餅を焼いて食うのが好きでのう。 小坊主たちは、それがうらやましくて仕方がない。 なんとかあれを自分たちも相伴にあずかる方法はないものか。 みなで知恵をあわせて考えたのじゃ。 ある晩、いちばん年長の小坊主…

ひとり多い

いわくのある家に移ってから、異変続きだ。 まず最初に気づいたのは、部屋にある本棚の並び。 三国志の全集が、どう数えても一冊多いのだ。 しかし、どれがだぶっているのか分からない。 次に気づいたのは、駅の路線図。家から会社のある駅まで、どう見ても…

パズル博士ふたたび

夜中に目を覚ますと、金縛り。 足元を見ると、初老の男が座ってこちらを見ている。 「私は、パズル博士だ。この問題が解けるかな?」 男の後ろから、もうひとりの男が出てきた。 まるで双子のようにそっくりだ。 「間違いを探せ。全部で5つ。すべて見つけら…

オジロヌーの料理店

まあまあまあ、とオジロヌーは、ラーメンをすすめてくれた。 とってもおいしいのだが、問題点がひとつ。 中にシナモンとプリンが入っているのだ。 「とっても体のバランスにいいんだよ」 なんだか、解ったようで解らない。 はいはいはい、とまたオジロヌーが…

来なくなった円盤乗り

太郎くんが、足の小指を机の脚にコツン。 花子さんが、ひじを椅子の背もたれにパキン。 大介くんが、むこうずねをベッドにゴツン。 「!」 声にならない声は光の速さで空間を飛び、はるかかなたの星まで届きます。 この瞬間にも、地球上で何万人もの人が「!…

塞翁が馬

よちよち歩きの幼児を連れたお母さん。 散歩から帰ってきて、エレベータのボタンを押す。 そこで亭主からケータイに着信。 話しているあいだにエレベータのドアが開く。 子供はよちよちとひとりで中へ。 お母さんは「ダメよ」と言って、リードを引っ張る。 …

フルーツ怪人

怪人の頭に、木が生えている。 夕闇の迫る街角。怪人の影が、路面の赤レンガに長く伸びている。 怪人のシルクハットから伸びた太い幹は枝を広げ、大きな影をつくっている。 正義の味方が出動した。 「おい怪人!治安を乱しに来たか!正義はお前をゆるさない…

命拾い

通された部屋には、蝋燭がいっぱい並んでいた。 いのちの蝋燭。 一本一本が、ひとりの人間に与えられた寿命の長さを示しているという。 自分のを見ると、すごく短い。こりゃまずいぞ。なんとか出来ないか。 おや、あっちのカンテラに蝋燭が灯ってるぞ。あれ…

むずむず

中年男の幽霊が、部屋の隅に向かって正座している。 うなだれて、ひとことも発しない。ずっと毎晩こうだ。 ある晩、男の着ているセーターのすそがほつれているのに気がついた。 いったん気がつくと、それから気になって眠れない。 ちぎってやろうと思い、糸…

携帯電話と宇宙人

電車の中で携帯をいじっていたら、めずらしそうに覗き込む者がいる。 ひょっと見たら、宇宙人だった。 「ソレハ、ツウシンソウチ、デスカ?」 若い女性のようだ。 彼女の星の文明は進んでいて、通信手段はほとんどテレパシー。 電話という器械を見たことが無…

宇宙忍者

からからん。足が仕掛けの糸にひっかかって音を立ててしまった。 「ちっ」 八郎太は舌打ちする。せっかく天守閣近くまで潜入出来たというのに。 しかたがない。今日は引き返すか。 「出あえ。出あえーい」 しまった。出口を塞がれた。どうしてくれよう。 そ…

浜辺の牛乳

流れ着いた宇宙船。 浜辺を歩いていたヨシオは、足を止めてしばらくじっと眺めた。 ハッチが開いた。 そして、中から、ひとまわりちいさな宇宙船が出てきた。 なんだろう。ヨシオは、じっと見つめた。 ひとまわりちいさな宇宙船から、さらにちいさな宇宙船が…

多重衝突

衝突音、ちょっとした衝撃。何かをはねてしまったようだ。 すぐさま停車し、外へ出てみる。 深夜の国道は、静かだ。だれもいない。 はねられた相手も、見当たらない。 今来た道をずうっと後ろまで眺めたが、何もない。 もしかしたら、停めた車の下かも。 そ…

怪事件

裏のはたけで、ポチが鳴く。 「ここ掘れ、ワンワン」 正直じいさんは、その場所をクワで掘ってみた。 すると、どうだ。大判、小判がぎっしり入った壷が出てきたではないか。 おじいさんは、大喜び。 「もっと掘れ、ワンワン」 またポチが鳴く。 「ああ、もっ…