2008-03-01から1ヶ月間の記事一覧

滑空

重い灰色の空はどこまでも広く、大地は豊かな黄緑色に輝いている。 息子とふたりで、「この原っぱを向こうまで斜めに突っ切ってみよう」と話す。 一見すると草ぼうぼうの原っぱだが、地面はチェス盤模様に染め分けられている。 遠く地平線から吹いてくる風は…

地震と角度

授業中、大きな地震が起きた。 若い女の先生は、落ち着いて座っているようにと生徒たちに諭す。 暗い夕空、垂れ込めた雲の間から、やけに赤い夕焼けが燃えるようだ。 校舎はありえない角度でひねられる。 南を向いていた窓から、西にある町並みや、次には東…

数える彼ら

「28・・・28・・・」 歌が聞こえる。 インディアンたちが、井戸の周りを踊りまわっているのだ。 「28・・・28・・・」 知ってるぞ。近くへ寄って井戸を覗き込んだら、突き落とすんだろう。 そうはいくものか。 「28・・・28・・・」 そろっと音…

ピッタシいかないねえ

長期の旅行に出かけようと思って、頭に充電器を差し込んだ。 時間がないというのに、子供たちが遊んでいて、飛行場がなかなか空かない。 さっきからずっと、プロペラ機が頭の上を旋回している。 飛行場は、末端に行くほど大きく茂っている。ちょうど、ブロッ…

どいつもこいつも

まったく、春ってやつは。 長らくベッドの下に鎌を持った男がひそんでいたが、 先週あたりから、鎌を持った女がふえている。 ひとなつっこいサボテンに追っかけられる。 とうとうつかまって、いっしょにプリクラを撮らされるハメに。 ドラムのみで弾き語りを…

その2

幽霊に、懇々と立ち退きを説得。 「公衆道徳とは、互いに譲歩することでもあるのだ」 と、私は幽霊に優しく諭した。 なのに幽霊は、 「じゃあ、互いに譲歩することは、公衆道徳だと言うんだな?」 などとオウム返しに言い返して来たので、私のアタマの火山が…

その1

日暮れ時。玄関先を掃いていたら、ゆらりと目に入るものがあった。 真っ黒な、人型の影。 それは、ちいさな児童公園のわきにある、公衆電話ボックスの前にたたずんでいる。 それを見たとたん、町内会役員をつとめる私は、腹が立ってしょうがなくなってしまっ…

涙の思い出

さる会社の社長が、破産した。 財産を全て失い、ぼろぼろになった彼は、子供のように、腹の底からおお泣きした。 顔を真っ赤にし、両方の目から大粒の涙をぽろぽろとこぼす。 気持ちいいくらいの泣きっぷりだ。 集まった友人たちは、あっけにとられ、慰める…

池の手

ぽちゃっ。池の水面で、なにかがはねた。 魚だろうか。 ぽちゃっ。またはねた。あれは、ひとの手じゃないか。 あたたかい、休日の午後。 池には、親子やカップルの乗ったボートが行き交う。 彼らは水面の手に気づく様子もなく、楽しそうにオールを漕いでいる…

幸福の和音

道端に、ボタンのいっぱいついた自動販売機が置いてある。 箱に見えるのはボタンだけ。何を販売しているのかも、いくらで販売しているのかも、 いっさい不明だ。 俺はこれに、最近ひそかにハマッている。 どれかボタンを押すと、ほんの数分間だけ、とても満…

運のつき

わはははは。心がウキウキするぞ。 これから、洞窟に入るのだ。 洞窟の奥には、誰をも隠滅な気分に陥らせ、自殺に追い込むという、 なんかそんなやつがいるのだ。あはははは。 俺は、そいつを倒すという任務があるというわけだ。上等だぜ、なはははは。 この…

天上のマナー

キリンが何頭も立っている。近くで見ると、やっぱりでかい。 見上げていて、気付いた。 長い首の上には、どのキリンも頭がついていない。 どういうことだ? よく見ると、キリンたちの頭は、低く垂れ込めた雲の上にあるようだ。 面白いので、雲の上に出てみた…

ひとはいさ

桜のトンネルが、満開だ。 いつもは通り過ぎるだけのひとびとが、今日は立ち止まって上を見上げている。 死んだようだった桜の古木たちが、こんなにいっぱいに咲くところを見ると、 どうやら死ぬものなど、この世には無いかのようだ。 そして、もうすでにこ…

脱出

天井から、立ったままの死人が落ちてくる。 さくっ、さくっ、と小気味よい音をさせて、つぎつぎに畳へ突き刺さる。 畳の上に寝ているこちらとしては、たまったものではない。 右へ、左へ、ごろごろと転がりながらよける。 八畳の間はもうすでに、突き刺さっ…

いらないよー

みずうみのほとりでお弁当を食べていると、湖面にさざなみが立った。 そして、ひとりの美しい女性が現れた。女性は、みずうみの女神であるという。 女神は、ほほえみながらたずねてきた。 「あなたは、なにか落としましたね?」 いいえ。なにも落としてませ…

死んでいる機械

はかせ。このきかいは、なんですか。 「さわってはいかんぞ。それはわしのはつめいした『死んでいる機械』じゃからな」 しんでるんなら、さわってもいいんじゃないですか。えいっ。 ぶうううううん。 「わあっ!いきかえった!にげろ!!」 人気ブログランキ…

死んだフリ

「死んだフリをする死体」というのを、初めて見た。 「フリ」だけで、じつは死んでない。でも、死体。 「死んでないフリをする死体」はたくさんいる。 そんな中で「死んだフリをする死体」は、とてもクールに、 午後のスクランブル交差点を渡ってひとごみに…

親善

宇宙人たちに、親善の印として缶ビールをあげたら、喜んで宇宙船に帰っていった。 外から見てると、なんだか大騒ぎしているようだ。 開ける前に、缶を振ったに違いない。 人気ブログランキングへ

窃盗

空から、コンビニ型宇宙船が降りてきた。そして住宅地の原っぱに着地。 ガラスの自動ドアが開くと、中から牛乳パック型宇宙人たちが、元気よく飛び出してきた。 宇宙人たちは蜘蛛の子を散らすように、そこらじゅうのコンビニへ分散。 すこししてからまた元気…

24階

給湯室でお茶の用意をしていると、外が妙に明るくなった。 車のヘッドライトな訳がない。だってここは、ビルの48階なんだもの。 窓から見ると、UFOがこのビルに接近してきていた。 ぶつかる、と思った瞬間。 UFOは光のすじとなり、ビルの周りに巻き付…

ロケット内日常

宇宙ロケット内郵便局に、怪しい男出現。 黒ジャンパーに、目出し帽。 「この郵便を至急に金星まで送りたい」 一方の手には、文化包丁。 「お送りしますが、今このロケットは土星に向かっておりますので、 地球へ折り返した帰路に・・・」 局員が応対すると…

空論

将軍が、ついたての前で言う。 「一休よ、これに描かれた虎を退治せよ」 一休は、とんちで返す。 「では将軍さま、こちらまでおびき出してください」 将軍は、負けず嫌いだ。 「なんでわしがやるのじゃ。おまえがやらんか」 一休も、言い返す。 「いいえ、将…

プロの技術

フック船長に追われ、気がつくと子供の上に肩車していた。 こちらを弓でねらう男がいる。ロビン・フッドだ。 おいロビン。待ってくれ。俺はリンゴじゃないよ。 さくっ。 頭の上で、音がした。 どよめく群集。パチパチパチと大きな拍手。 俺の頭にリンゴが乗…

戦略

巨大な木馬が完成した。 まさか木馬の中に歴戦の勇士たちがひそんでいようとは、誰も思うまい。 城の前に置かれたこの木馬を、敵が取り込めば。 そして、夜中になって、敵が寝静まれば。 その時こそ、われらの知恵の勝利だ。 木馬は、城のそばの森まで運ばれ…

前途多難

桃太郎が、鬼が島へ向けて出発する。 犬、猿、キジを連れて、港へ向かう。 麻布谷町の坂を登るうちに、霧が濃くなってきた。 いや、これは霧ではない。 おどろくべきことに、それは羽虫ほどもちいさな「鬼」の大群なのだ。 街一面を埋め尽くす大群は、あたり…

タケオ

小学校に上がったばかりのタケオは、田舎のじいちゃんちに遊びにきている。 じいちゃんちの裏手の山はむかし合戦のあった場所で、今でも武者の幽霊が出る。 「おいタケオ、この崖、向こうまで飛び越してみろよ」 武者の大将が言う。 「へっちゃらだい」 元気…

春の足跡

この季節はいつも、散歩道は桜でいっぱいだった。 トイ・プードルのポシェが死んで、一年目。 玄関わきの台所に、今朝ちいさな足跡がついた。 そして桜の花びらが、一枚。 帰ってきたか、ポシェ。 今年も、散歩道は桜でいっぱいだ。 神社の参道には、屋台が…

生きている証人

強盗殺人事件の法廷。 現場に立てこもった犯人はその場で射殺されたので、この法廷では判決のみが述べられる。 被害者の遺族は、暗い表情。 被害者の名前が読み上げられると、中でもとくに青白い表情の男が、口を開いた。 「俺はまだ死んでないぞ」 これは、…

モダン・リビング

大きな窓から、たっぷりの日差しが、はいりこんでくる。 3階まで吹き抜けの、モダンなリビング・ルーム。 血を流した落ち武者が、倒れている。 この家の主である30代の企業家夫婦は、すっきりした冷たい金属の家具が好き。 色は、シルバー、ブラック、レッド…

身代わり

「ちょっとここに立ってて」 幽霊にたのまれた。 すぐ帰るからというので断りきれず、柳の下にたたずむことに。 ときどき通る会社帰りのOLやら、酔っ払いやらに変な目で見られる。 いやだなあ。 はやく帰ってきてくれよ。 人気ブログランキングへ