2008-04-01から1ヶ月間の記事一覧

闇夜の明かり

真夜中、眠れないので、ひとり外に出てみた。 裏庭は、柵もないまま森へ続いている。 そこへ立って、木立の上の星空を見上げた。 今宵は新月。 空に月は無く、あたりはことさらに暗く思われる。 手探りしないと、無用心で前へ進めないほどだ。 ふくろうの声…

朝買うよ

徹夜明けの頭で、朝の街を歩く。 麻痺して役に立たなくなった体内時計からくる、軽い時差ぼけが気持ちいい。 いつもの駅前通りの風景は、まるで鏡を見ているように逆像に見える。 妙にさわやかだなあ。こういう朝が毎日来ればうれしいんだが、 徹夜はもうカ…

非力の朝

夏休み。自分ひとりだけ、水泳の補習で学校に来ている。 プールで泳げばいいものを、なぜか教室で黒板に向かっての眠たい授業。 体育の教師が黒板に字を書いているあいだに、 小型のフランスパンを弓矢のようにつがえる真似をし、指を離す。 ひゅっという小…

俺の勝ち

爽やかな朝の空気を呼吸しながら、さっそうと家を出る。 出勤するつとめ人たちを追い越し、さっそうと歩く。 駅の方へ向かうのだが、べつに電車に乗るわけではない。 ああ、電車なんか乗らないとも。 俺は、さっそうと駅の高架をくぐった。 駅の向こうはさび…

春の流れ

コンビニの棚のあいだを、さらさらと水が流れてゆきます。 魚たちが、ゆらゆら光る水面を見上げています。 「水があたたかくなって来よったなあ」 年寄りの魚が言います。 水面を、さくらの花びらが、かたまりになって流れてゆきます。 「ぼく、アルバイト」…

コンビニジャック

夕方の首都高。コンビニが渋滞している。 200mほど向こうで、大型コンビニの商品が荷崩れしたらしい。 もう20分ほど、ぴくっとも動かない。 「おい」 目出し帽に黒い革ジャンの男が、拳銃をレジの店員につきつけた。 「コロンビアまで飛んでもらおうか…

名探偵あらわる

高級マンションの一室、血だらけのシャワールームから、 浴槽に沈むコンビニが見つかった。 友人のコンビニからの通報で、死後それほど経ってはいない。 歩き回る捜査陣と、パチパチ光るフラッシュ。 そんな中、コンビニのレジカウンターのうしろから、 ふら…

いいコンビニ、わるいコンビニ

わるいコンビニが、地面に穴を掘っている。 落とし穴だ。ほんとうに、わるいコンビニだ。 「きゃー」 いいコンビニがやってきて、落とし穴にまんまとはまる。 物陰からそれを見て、ほくそ笑むわるいコンビニ。 ほんとうに、まったくわるいコンビニだ。 人気…

みのるさんのコンビニ

みのるさんが、一杯きげんで夜道を帰る。 今日、仕事場でいいことがあったらしい。 みのるさんが頭に乗せたコンビニは、まずまずの客いりだ。 いつもより灯りを明るくし、ちょっと値下げもしてみている。 だって、今日はごきげんなのだもの。 コンビニを乗っ…

捕獲

夜、車を走らせていると、一軒のコンビニの灯りが見えてきた。 ちょっと休憩していくか。 見ると、四方に入り口があって、中はけっこう人が入っている。 繁盛してるんだなあ。 車を停め、入り口へ向かって歩いていくと、ヤンキーふうのにいちゃんが、 自分の…

浜辺のレジ

夜中、小腹がすいたので近所のコンビニへ。 改装された店は、前よりずっと広くなっている。 こりゃいいなあ。なんでもあるぞ。 棚を見て回りながら、奥へ、奥へ。 いったいどこまで広いんだ、このコンビニは。 やっと店の端までたどりつくと、そこは砂浜にな…

自宅内コンビニ

夜中、のどがかわいて台所の冷蔵庫を開ける。 中を覗くと、なんとコンビニになっているではないか。 ずらりと食品棚が奥へ向かって延び、向こうのレジには店員が見える。 ちょっと思案はしたが、これは俺の冷蔵庫なのだからということに決定。 棚から勝手に…

屋根池の記憶

雨が漏るようなので屋根へ登ってみると、おおきな穴があいていた。 直径2mほどだろうか。水が溜まった様子は、ちょっとした池のようだ。 「おーいヨシコ、こっち登ってきてみろお」 なんだかうれしくなって下へ声をかけたが、妻はこわがって屋根へあがらな…

いらか鉄道

授業もつまらないし、バイトもやめてしまった。鬱屈してアパート二階の四畳半。 布団にくるまってフテ寝していると、からからからから。屋根のてっぺんで音がする。 いらか鉄道だ。 こつこつ、と窓を叩く音に布団から抜け出して、カーテンを開ける。 悪友の…

屋根に憩う

学生の頃お世話になっていた先生の家におじゃまする。 もうとっくに退職されているので、てっきりいらっしゃるものと思っていたが、 奥さんによると、今日だけあいにく釣りの会に出かけてお留守だという。 夕方までにはお帰りになるそうなので、待たせてもら…

雲の裂け目から、巨大な門が姿をあらわした。 門番が門扉をひらき、ペガサスのひく馬車が滑空しながらすべりこむ。 黄金で飾られた御殿の中には、ふたりの神々しい老人がいた。 「よくきたな。わしは、時間の番人、塩キャラメル味じゃ」 左の老人が言う。 「…

街のくらし

追っ手に追われた忍者。マキビシを撒く。 「うおっとっと」「いてて」 追っ手たちは、ダメージを負った! 忍者は、すこし距離をあけることに成功。 しばらく走って、またマキビシ。 「うおっとっと」「いててて」 追っ手たちは、さらにダメージを負った! 忍…

誕生

毛玉のようなものが、空間に浮いている。 それは、ほかの似たような毛玉のまわりを回り、 さらに毛玉の集団は、大型の毛玉を中心に動いている。 ひとつの毛玉にフォーカスすると、元素モデルのように整っていることが分かる。 ラインで結ばれたいくつもの玉…

よろこび

庭いじりをしていたら、ずいぶん前に埋めたタイムカプセルが出てきた。 小学校のときの時間が、そのまま詰まっている。これ、いいアイディアだなあ。 恋人を呼んできて、タイムカプセルに入れて、埋めた。 これで彼女は、永遠に老いることはない。よしよし。…

逆行

どうしたことか、最近、時間が逆行しているようなのだ。 それも、常に逆向きに流れているわけではない。 朝目を覚ますたびに、一日ずつ昔へ戻っているのだ。 季節は日一日と、春から冬へ向かっていることになる。 一日の中では、未来の予測がついて便利だ。 …

役をこなす

人影途絶えた、住宅街のはずれ。 いつもは表通りを通るんだが、今日は夜桜を見に、ちょっと遠回りしてみよう。 竹やぶ脇の夜道を歩いていると、ツナギの男が、ナタを振り上げて襲ってきた。 ・・・なぜ俺を? なまあたたかい血があれよあれよという間に広が…

セピア色の怪物

得体の知れない怪物に追いかけられた。 セピア色で、ぶよぶよしていて、 なんだか風に舞うビニールのレジ袋のようでもある。 怪物の口が大きく開くと、そこからぐるりとセピア色の体が反転する。 そして、そこにはコンビニが出現したのだ。 中へ入ると、内装…

胡蝶

脳みその中を、蝶が飛び回っている。 その影が眼球の中にちらちらして、目を開けていられない。 おまけに、蝶の羽音が耳の中で鳴り続けて、眠ることも出来ない。 その蝶は、あらゆるものに姿を変えるんだ。 そして視界の隅っこで、いろんな人の姿をとっては…

話せば分かる

間違って、自分の部屋に電話してしまった。 すぐ気がついて、切ろうとしたら、なんと。だれかが受話器を取ったではないか。 「もしもし。救急隊員ですが」 おどろいたことに、俺が自室で死んでいるらしいのだ。そんなばかな。 急いで帰ってみることに。 部屋…

蟹の気持ち

スパゲッティが、皿の上で泡立っている。 コーヒーも、アメリカンなのに泡立っている。 なにもかも、アワアワだ。 サワガニ派のテロで、発泡があったばかりなのだ。 「おい、さっさと食え。サツに位置が特定される前に出るぞ」 蟹男が、言う。俺は、男に誘拐…

ちいさな世界

巨大なマンション。 それはひとつの街であり、すべてのものが建物の中に備えられていた。 商店もあれば、役所も病院も、テレビ局まであるのだ。 ひとびとはそこで生まれ、出会い、暮らし、人生を終える。 外の世界がどうなっているのか、だれも知るものはな…

誘拐電話

電話に出ると、男の声で、 「おまえのとこの坊やをあずかっている。身代金を用意しろ」 と言う。しかし、うちには子供はいない。 「おかしいな。なら、このチャイナドレスの美女はお前の女房だろうな」 いえ。独身です。 「そうか。なら、このチワワはおまえ…

たいへんだ!

宇宙人が、UFOにさらわれた!! ・・・あ、いいのか。 人気ブログランキングへ

マトリョーシカ

バッグに荷物をいっぱいに詰めた女が、玄関を出て行こうとする。 男は、キッチンの椅子に身を投げ出して、ぼうっとそれを眺めている。 きゅうくつな団地の一室。この玄関も、彼女がいろいろ飾ったのだろう。 バッグに詰めても、まだ詰めきらない思い出があふ…

ラーメン犬

ちいさな公園のゴミ集積場で。 そぼふる雨の中、一匹のブチ柄の子犬が、傘もささずに鳴いている。 どうした、とわけを聞くと、懇意にしてくれていたご主人が亡くなってしまったという。 ふびんな話だ。 これからどうするのか、と問うと、わからない、とだけ…