日本で、よかった。
「二階へどうぞ」
もんじゃ焼き屋の一階は、子供でいっぱい。
おばあちゃんが急な階段を上がって行く。
後について上がると、二階が目を見張るほど広い。
畳敷きの間が一面に広がるさまは圧巻だ。
「旅館の大宴会場みたいだな」友人も驚いている。
こういう建築もあるんだな。話の種にはなる。
ちいさな折り畳みちゃぶ台で、もんじゃ焼き。
鉄板の上のネタをこねくりまわしながら、どうという話でも無い話をする。
べつにそれほど美味な食い物でも無いが、この間合いがいいのだ。
「おい、この部屋・・・」
友人が、フト顔を上げてつぶやく。
「さっきより広くなってないか?」
そういえばそうだ。
サッシュの窓も、上がってきた階段も、さっきよりずっと遠くにある。
部屋の奥の窓は、もうはるかかなた、畳の傾斜の向こうに見えなくなっている
ではないか。
「見ろ!あれ」
傾斜の向こうに、土ぼこりがあがる。
どどどどどど・・・
野生のバイソンの群れだ。こっちへ走ってくる。
「逃げよう・・・」
ちゃぶ台ごと、部屋の端っこへ移動。
しかし、なかなか端まで行き着かない。部屋は、広がり続けているのだ。
バイソンの群れは、部屋いっぱいになって走ってくる。
もういいや。
俺たちはあきらめて、焼けてきたもんじゃを食べ始める。はふはふ。熱い。
あきらめてはいるものの、ちゃぶ台は抱えたまま、とりあえず移動もする。
走ってくるバイソン。畳の間は、土煙でもうもうとしている。
男ふたりでちゃぶ台を抱えて、カニ歩き。
もんじゃは、熱い。
話は、つきない。
階段の方から、おばあちゃんがオレンジジュースを持ってきた。
日本で、よかった。