生きている証人
強盗殺人事件の法廷。
現場に立てこもった犯人はその場で射殺されたので、この法廷では判決のみが述べられる。
被害者の遺族は、暗い表情。
被害者の名前が読み上げられると、中でもとくに青白い表情の男が、口を開いた。
「俺はまだ死んでないぞ」
これは、被害者の幽霊。彼は、自分が死んだことをまだ解っていない。
うなだれる遺族。
「ほらみろ。被害者は死んでないって言ってるじゃないか」
被告人席から、声がする。
「俺はもう死んでるんだから、懲役3百年なんてかんべんしてくれよ」
これは、強盗の幽霊だ。
法廷が、いっそう重苦しい雰囲気につつまれる。