滑空
重い灰色の空はどこまでも広く、大地は豊かな黄緑色に輝いている。
息子とふたりで、「この原っぱを向こうまで斜めに突っ切ってみよう」と話す。
一見すると草ぼうぼうの原っぱだが、地面はチェス盤模様に染め分けられている。
遠く地平線から吹いてくる風は強く、ときおり一面の草をなでるように揺らす。
草は、ちいさな息子の背丈より高い。前が見えないので、先導して歩いてやる。
いざ歩き出してみると、足元の地面には、先人の踏み分けた跡が道になって続いているみたいだ。
これなら、かえって背の低い息子の方が、ある意味で、父より道に明るいことになるかもしれない。
赤のこうもり傘をさす。
うしろからの風にあおられて、足が地面から浮く。
うまく角度をあわせれば、傘をこわさずに浮くことができそうだ。
「父ちゃん、飛んでよ」
よおし。見てろよ。
大して高くは浮かないが、トライするたびに長く浮いていられるようになってくる。
こりゃ楽しくなってきたぞ。
かけあしで助走をつけると、地面を蹴らなくても自然に体が浮く。
動力は、風だ。しっかり傘の柄につかまっていないと負けてしまいそうだ。
地面にいるときには6本だった傘の骨が、飛んでいるときには8本に増えている。
おちょこにならないように、風向きに気をつけなくては。滞空時間が長くなってきたぞ。
いつのまにか、息子がいっしょにつかまって飛んでいる。
ふたりただ黙って、一面の緑の上を、なでるように滑空する。