夜の山肌
列車の窓から眺める景色は、遠くの山並み。
これから湾の入り江を回って、太平洋を望むのだ。
行く手には、ひときわ異彩を放つ真っ黒な山。
昼なお暗く、ひと足先に日が暮れている。
その黒の深さは尋常ではなく、あたりの景色を吸い込むほど。
見よ、工場の煙突が吐く煙りを。
真っ黒な山めがけてたなびく構図は、まるで日本海軍の日章旗のようだ。
山は、ちいさな湾にずっしりのしかかる。
湾は昼なお暗く、海中に蛍イカの群れるのが見える。
今目の前で、ちいさな湾は、黒い山にすっぽりと飲み込まれてしまった。
入り江は無くなり、すべて山になってしまった。
ここで列車は予定をあらため、すごすごとトンネルに入ることになる。
夜の山肌に、突入するのだ。
この山以外は、まだ夕陽が残る。あたりは一面、明るいオレンジ色。
夕陽を照り返す太平洋は、あきらめざるをえないだろう。