多重衝突

衝突音、ちょっとした衝撃。何かをはねてしまったようだ。
すぐさま停車し、外へ出てみる。


深夜の国道は、静かだ。だれもいない。
はねられた相手も、見当たらない。
今来た道をずうっと後ろまで眺めたが、何もない。
もしかしたら、停めた車の下かも。
そう思って、地面にはいつくばり、覗き込んだ。
その時。


ぶううん。
車は動きだし、たちまちどこかへ走り去ってしまった。


なんてこった。
ぼうぜんと見送るばかりで、どうしていいやらさっぱり分からない。


・・・どん。


油断していると、背中に衝撃を受けて地面に転倒。
・・・なんだ?・・・
自分の上には、車が停まっている。俺もはねられてしまったようだ。
だれかが降りて来た。


注意しながら、外へはい出す。あいつはだれだ?
その背中を見て、思わず息をのむ。


自分じゃないか。


なんだか見つかってはいけない気がして、車のわきへ隠れる。
もうひとりの自分が車の下を覗き込んだら、乗り込もう。
上手いぐあいに運転席へ。
エンジンはかかったままなので、すぐに発進できた。
ぶううん。


さあ、とにかく病院へ急ごう。
背中が焼けるように痛い。
あそこに大きめの救急病院が見える。ちょうどよかった・・・。
駐車場に車を入れ、エンジンを切ってフト隣を見たとき、
心臓が停まりそうになった。


ズラリとならんだ、自分の車。
中には、ひとりずつ自分が乗って目をつぶっている。
そこで意識が飛んだ。


気が付くと、朝。
運転席は冷え込んでいた。
ここは国道。ゆうべ停車した場所に違いない。


あれは夢か?


いや、この背中の痛みは打撲傷だ。
背中についた、ヘッドライトの破片。
外へ出て見なくても分かる。きっと車体の凹みは俺のものだ。


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