宇宙忍者

からからん。足が仕掛けの糸にひっかかって音を立ててしまった。
「ちっ」
八郎太は舌打ちする。せっかく天守閣近くまで潜入出来たというのに。
しかたがない。今日は引き返すか。


「出あえ。出あえーい」
しまった。出口を塞がれた。どうしてくれよう。
その時だ。


ぴこん。ぴこん。ぴこん。ぴこん。


八郎太の前に、宇宙船が現れた。もう、ぴかぴか光っている。
これじゃ目立ってしょうがない。
なんでこんな時に、こんなのが出てくるのか。


「くせ者だ。あそこだぞーっ」
ほらみろ、見つかったじゃないか。
こうなったら、宇宙人のフリをするしかない。


「あやしいやつ。きさま、何者じゃ」
「ワタシハ、ウチュウジンダ」
「宇宙人か。きさまだな、さっき音立てたのは」
「ワタシダ。ゴッツ、スマンカッタ」
「夜中に来るんじゃ無いよまったく。とっとと星へ帰れ」


よかった。さあ退散しよう。
「おい待て。どこへ行く。この宇宙船で帰るんじゃないのか」
またもやピンチの八郎太。たしかに宇宙人が徒歩で帰るのは変だ。
「ネンリョウガ、キレタ。ムラヘ、モライニイク」
「なんだ。燃料ならやるぞ。ほれ、持って行け」


本当にくれるとは。どうしよう。困った。その時だ。
宇宙船のハッチが開いて、本物の宇宙人が出て来てしまった。
万事休すだ。


燃料タンクを運び、宇宙船のわきの穴に注ぎ入れる、宇宙人。
本当に燃料切れだったようだ。
宇宙人は燃料を注ぎ終えると、さっさと宇宙船の中へ戻って行く。
「タスカリモウシタ。マコトニ、カタジケナイ」
侍たちへ宇宙人の代わりにお礼を言い、急いで一緒に乗り込む八郎太。
だって、しょうがないじゃないか。


手を振る侍たち。お城がどんどん遠く、ちいさくなる。
これからどこへ連れて行かれるのか。
降ろして欲しいが、なんて言えばいいのか。
八郎太の忍び人生、まったく最大のピンチである。


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