むずむず

中年男の幽霊が、部屋の隅に向かって正座している。
うなだれて、ひとことも発しない。ずっと毎晩こうだ。


ある晩、男の着ているセーターのすそがほつれているのに気がついた。
いったん気がつくと、それから気になって眠れない。


ちぎってやろうと思い、糸を引っ張った。


糸は簡単にはちぎれてくれない。ずるずるといくらでもほつれてくる。困ったなあ。
はさみで切ればいいんだと気がついたときには、裸の背中が見えるぐらいまで
ほどいてしまっていた。


もういいや。寝よう。


布団の隙間から男をうかがうと、まだ同じ姿勢のままうつむいている。
その背中を見ていると、むずむずとおかしさがこみあげてきて、たまらなくなった。
すまないとは思うのだが、そう思うと余計に笑えて仕方がないのだ。
「ユルシテー」
と言いながら、しばらく寝床で悶絶していた。
こういうタイプの幽霊は、苦手だ。


にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ