命拾い
通された部屋には、蝋燭がいっぱい並んでいた。
いのちの蝋燭。
一本一本が、ひとりの人間に与えられた寿命の長さを示しているという。
自分のを見ると、すごく短い。こりゃまずいぞ。なんとか出来ないか。
おや、あっちのカンテラに蝋燭が灯ってるぞ。あれでもいけるんじゃない?
ちょっとデザインは違うが、遠くから見れば分からないに決まっている。
悪魔があっちへ行った。よし。交換だ。
この短いのは、捨てちゃえ。えいっ。これでよし。
「あー? お前いま、何投げたんや。あかんやないか。ゴミ捨てたら」
死神が帰ってきた。間一髪だ。
「ありゃ、この蝋燭だけ、違うやつやんけ。・・・お前、取り替えたんちゃう?」
おもいっきりバレている。
「捨てたやつ、すぐ拾って来い。本物やないと意味ないんやから」
そ、そうだったのか。えらいことだ。俺、今もう死んでるってことじゃないか。
はいつくばって、必死で机の下を探す。あった。よかった。
しかし、見つけたやつは、どう見てもさっきのよりずっと長い。
なぜだろうと考えて、理解する。自分の他にも、以前に取り替えたやつがいたのだ。
俺のも、どこかにまだ落ちてるはずだ。あったあった。
「お前、何しとんねん。あー! 2本に折れとるやないか。ぼけが」
スリッパで殴られた。でも、痛くないよ。死神が、蝋燭を継ぎ足してくれたのだ。
「お前ここに居させたら、何するかわからん。はよ帰れ」
というわけで、大喜びで地上へ戻ってきた。
「命拾い」って、こういうことね。