よろい武者の湖
深い森の中。一瞬にして、風が停まった。
たちまち、あたりは濃い霧に包まれる。
ぶおおおー。あれは、ほら貝の音か。
べべべん、べべん、べん、べべん、べべん。琵琶の音が響く。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ。霧のかなたから、大勢の足音が近づいてくる。
ぼんやりした影は、やがてはっきりとその全貌を現した。
よろい武者の群れ。
勢ぞろいしたあと、いったん武者たちは引き上げ、ふたりの武者が残される。
ひとりの美しいよろい武者に、均整の取れたたくましいよろい武者が歩み寄る。
向かい合い、互いに両手を後ろにのばす。そして、はげしく背中で羽ばたきながら、
カブトをぶつけ合ってカタカタ音を鳴らしはじめた。
・・・「求愛」のポーズだ !
そこへ、全身真っ黒なよろい武者が現れる。
この黒武者が、真っ黒な扇子をヒラヒラさせながら、華麗な踊りを披露する。
・・・「誘惑」!「誘惑の踊り」だ !
さっきのたくましい武者が、ふらふらと黒武者のほうへ吸い寄せられるように近づいて行く。
だめだ、だまされてはいけない !
見よ、あの梢の上を。カラスの姿をした悪の魔王が、黒武者を操っているではないか !
気づいたたくましい武者。剣を振りかざし、魔王に切りかかる。
なんと興奮する場面 !
格闘の末、魔王は翼を切り落とされ、地面に倒れ、もがき苦しむ。魔王の最期だ。
高まる音楽。
・・・感動のクライマックス !
晴れて、ふたりの武者は結ばれた。
大勢のよろい武者たちが円陣を描いてふたりを取り巻き、ダンスを始める。
・・・歓喜と祝祭の踊り !!
森全体が、ふるえた。
この感動を、なんと表せばよいのだろう。
もう、この眼が、あふれ出る涙でくもって見えない。
「よろい武者の湖」。来てよかった。いっぺんに武者ファンになった。
次は「眠れる森の武者」を観にこよう。