赤道の物語

九十九里の浜辺で浮輪につかまって遊んでいたら、潮に流されてしまった。
そして、たどりついたのは赤道。


本当に赤い帯が海上に浮いてるとは思わなかった。
本当だってば。プラスチックのブイがずうっと東西に続いているのだ。
船はこない。どうせ、赤道にぶつかって先へ行けないからね。


一計を案じて、赤道上を歩き始めた。泳ぐよりずっといい。
このまま東へ行けば、フィリピン諸島に着くはずだ。間違いはない。
太陽は西から東へ向けて動くからね。追っかけてればいいわけだ。
われながら、名案なり。


赤道が、この数日、海面より沈下する傾向にある。
変だと思っていたら、船が沈没して、たくさんのひとが赤道につかまっていた。
ぎしっ、ぎしっ、と赤道がたわむ。やめろ、これは俺の赤道だ。
そんなにたくさんつかまったら、切れるじゃないか。おまえら、どこかへ行ってしまえ。


ぷちっ。


ああ、切れてしまった。赤道が。赤道が。ああ、ぶくぶくぶく・・・。


御釈迦様は極楽の蓮池のふちに立って、この一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、
やがて男が太平洋の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうな御顔をなさりながら、
またぶらぶら御歩きになり始めました。・・・


海には、こんな危険がいっぱいです。
皆さんも、海難事故にはくれぐれもお気をつけ下さいね。


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