ココナッツにやられた。
いやはや、南国の人は気楽そうだと思っていたのだが。
お土産屋さんで買ったアロハを来て、ホテルの外を歩いていたのだ。
そこへ、地元のガタイのいいごろつきが、俺のえりをつかんだりしたのだ。
そんなとき。
すれ違った小麦色の肌の娘が、頭にのせたフルーツかごを放り上げるのと、
ごろつきが宙に舞うのとがほぼ同時。
ごろつきの背中がしたたか地面に打ちつけられる前に、彼女はかごをキャッチし、
なにごとも無かったかのように歩き出した。
ココナッツ柔術。あれがそうなのか―
列車のブレーキがきかない。
このままでは、大事故だ。大勢の人々の命はどうなるのか。
そんなとき。
ピンクのムームーが運転席に飛び込んできた。
南国の果実の香りがいっぱいに広がる。
列車は無事、駅の手前で減速、指定位置へあざやかに停車。
裸足の娘は、なにごとも無かったかのように改札を出て行った。
ココナッツ運転術。見参―
茶店は壊され、あわれ老夫婦はぶるぶると震えるばかり。
ならずもの一家は、茶店の一人娘を連れ去ろうと手をかける。
そんなとき。
虚無僧が笠を放り上げた。
髪にゆれるブーゲンビリアがまぶしい。
またたきをする間もなく、ならずもの一家は血の海に沈んでいた。
ココナッツ剣法。おそるべし―
「ありがとうございました。せめて、お名前を」
その名は、マウマウ。
歴代酋長の血を引く、一筋縄ではいかない娘。
色は黒いが、お国じゃ美人。
いやはや、南国の人は気楽そうだと思っていたが、なかなかどうして。