だめだよお
夜道。だれかが、ぐいぐい押してくる。ぐいぐい、ぐいぐい。
よせよせ。押すなよ。
押されたら、やっぱり押し返すよね。
そりゃあ押し返すさ。ああ。押し返したとも。ぐいぐい。ぐいぐい。
そんな感じで押してたら、面白くなっちゃって。
どんどん、どんどん、押しちゃって。
気がついたら、深夜の国道なのね。
なぜだか、自分が押してたのは、誰かの軽乗用車だったの。
やっぱり、そのうち車が通るでしょう。あぶないですよ。ここに置いとくと。
だから、もいっかい、押し戻したね。ぐいぐい。ぐいぐい。
そりゃあ押し戻すさ。うん。あぶないもの。
やっと終わったころ、トラックがすごいスピードで国道を通り過ぎてった。
ああ戻してよかった。
「チッ。ほっといてもよかったのに」
耳もとで、だれかの声が聞こえた。
だれだ? わるいやつだなあ。 だめだよお。