池の手

ぽちゃっ。池の水面で、なにかがはねた。
魚だろうか。


ぽちゃっ。またはねた。あれは、ひとの手じゃないか。


あたたかい、休日の午後。
池には、親子やカップルの乗ったボートが行き交う。
彼らは水面の手に気づく様子もなく、楽しそうにオールを漕いでいる。


つがいの鴨が、手のそばにそろって浮いている。
ひらり、と木の葉が水面に着水する。
鴨たちのお腹の下を、緋鯉がゆらゆらと泳いで横切る。


べつに、なにもおかしなことはない。
手は、あれでいいのだろう。
そう思えば、どことなく楽しそうに見えるじゃないか。
ほら、子供がやるように、バイバイと手を振っている。


ほおづえをついたら、ひやりと冷たい。
ハッとして見ると、濡れた五本の指に藻が絡み付いていた。


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