涙の思い出

さる会社の社長が、破産した。
財産を全て失い、ぼろぼろになった彼は、子供のように、腹の底からおお泣きした。
顔を真っ赤にし、両方の目から大粒の涙をぽろぽろとこぼす。
気持ちいいくらいの泣きっぷりだ。


集まった友人たちは、あっけにとられ、慰めるのも忘れてしまった。
そして、どうしたらいいものか思いつかないので、ただ爆笑した。


「わはははは!!」


べつに、いい気味だと思って笑っているのではない。
ほんとうに、どうしてよいか分からなかったのだ。


「うわあああん!!」


丸いおなかを揺らし、はげあがった頭から湯気を立ててひたすら泣く、元社長。


「わはははは!!」


身をよじって涙を流し、笑い転げる初老の男たち。
泣くことも、笑うことも、とても健康にいいことなのだ。


その日は、誰にとっても忘れがたい日となった。


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