峠のおばあさん

夜の峠道。
車を走らせていると、横を並んで走るおばあさんがいる。徒歩で。
ああ、見てはいけない。見てはいけない。
そう思って無視していると、おばあさんが窓ガラスを叩いてくる。
なにかとっても重要なことをいいたげな表情だ。


窓を開けると、おばあさんは、屋根の上を見ろと言う。
車を停めて見てみたら、べつなおばあさんが屋根にしがみついていた。
どうしたのかと聞くと、バックシートになぎなたを持ったおばあさんがひそんでいる、
だから気をつけろ、と言う。


そこへ、なぎなたのおばあさんが出てきた。
あっさり車は強奪され、夜の峠道にひとりおいてきぼりをくらうハメに。


しょんぼりして歩いていると、家の灯りが見えた。
行ってみると、おばあさんが出てきて、今夜は泊まっていきなさいという。
ご好意に甘えることにする。


夜中、物音に目をさまして障子のすきまから覗いてみると、
おばあさんが包丁を研いでいる。俺を食べる気だ。
あわてて外へそっと逃げ出す。


峠に出る道を探していると、俺の車が走ってきた。
お地蔵様の陰からうかがっていると、なぎなたのおばあさんが降りてきた。
屋根にいたおばあさんが降り、そして、徒歩のおばあさんも走ってきた。
そして、みんなで家に入って行った。
ああ、四人は仲間だったのか。


「五人だよ」


声がする。お地蔵様の中からだ。
ぴしぴしぴし。と石の体が砕けて、中からおばあさんが現れた。


「逃げようったって、そうはいかない。あきらめるんだね」


はい。わかりました。あきらめます。
あきらめますけど・・・でも、おばあさんたちって、何なんですか?


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