背骨
夜道で、男の首吊り死体を見つけた。
全体からにじみ出る雰囲気は、一本の木のように静かだが、
下がっている本人は「びっくり!」とでも言っているような顔つきをしている。
そして、びっくりしたまま、静かに凍りついていた。
しばし呆然としてながめていると、ふいに死体が口をきいた。
「おまえの背骨は、曲がっている!」
こっちだってもう、びっくりしたの、しないの。
そりゃあ、首をくくってぶら下がってりゃあ、背筋も伸びるだろう。
言い返したかったが、口がきけない。
そんな俺を見て首吊りの男は、フン、と鼻で笑い、くるりと回転したかと思うと、
次の瞬間には闇に消えていた。
「ありゃあ?ここにあったのになあ」
声がする。警官と、男がひとり、こちらへ走ってくる。
「ここに、首吊り死体がありませんでしたか?」
警官が聞いてくる。
そうですよ、たったいままでここに・・・と言いかけた時、
「あっ、このひとだ!」
警官に付き添って来た男が、俺を指さして叫ぶ。
「ぶら下がっていたのは、このひとですよ、おまわりさん」
警官は、あきれた顔をして俺を見た。
「あなたですか。たちのわるいいたずらは困りますなあ」
おこられてしまった。
ふたりとも、さっさと立ち去ったが、
去りしなに男が、フン、と鼻で笑ったのを見た。
あっ。
あのシャンとした背筋は。
気付いたら、さっきの、吊り下がっていた男だった。