さるのこしかけ
助けてください。まだ死にたくありません。
チャールズ・ブロンソンのような、苦みばしった西部の男が、
俺のこめかみに銃を突きつけている。
自然公園のベンチ。緑の葉のあいだから、鳥の声が聞こえる。
「残念だが、おまえは死ななければならない」
ブロンソンは、非情だ。
ちょっとぐらい、猶予をください。心の整理がつかないんですよ。
「よし、わかった。ちょっと待ってやることにしよう。
では、待つ間に、まずあれを見ろ」
よかった。待ってくれるんだ。
ブロンソンは、すぐ向こうの木を指差している。
「さるすべり」と表示板に書いてある。
「そうだ。サルスベリだ」
ブロンソンは、満足げにうなずいた。
「つぎに、その木の上を見てみろ」
つるつるーっ。
サルが、木に抱きつくようにして滑り降りてきた。
そして、ぽふっ、と音をたてて、木の根元近くのキノコの上に、
尻から着地した。
「さるのこしかけ」と表示板に書いてある。
「そうだ。サルノコシカケだ」
ブロンソンは、好々爺のように相好をくずし、何度もうなずいた。
ああ、なごんでいる。西部の荒くれ者が、なごんでいる。
なんだか、こちらまで落着いた気分になってきたぞ。
「さて、もういいかな」
ブロンソンは、俺のこめかみに銃をあてなおし、
かちゃりと安全装置をはずした。