ちいさな郵便配達

大空から、落下傘をつけたちいさな郵便配達たちが、
俺の郵便受けに配達に来ます。


みんなにこにこ笑いながら、つぎつぎに郵便受けに入ってゆきます。
中で、何をしているのかなあ?


そおっと覗いてみると、中には真っ赤な郵便ポストが入っていました。
そして、つぎからつぎへと、郵便配達たちを飲み込んでゆくではありませんか。


やめろ!
俺の、かわいい郵便配達さんたちを食べるのは、やめろ!


にくらしいポストは、俺の制止を聞くそぶりも見せません。
ちいさな郵便配達たちは、雨がふりそそぐように、空から降りてきます。
そして、にこにこ笑いながら、どんどんポストに食べられてゆくのです。
きみたち!ここは危険だよ!うちに配達に来るのは、やめたまえ!
俺は、たまらずそう叫びました。


ちいさな郵便配達たちは、ちいさな声で、笑いながら答えました。
降る雪のちいさなひとかけが手のひらで溶けるような、そんなはかない声でした。


「だめですよ、いなせなお兄さん。わたしたちは、これが運命なのです。
お兄さんの郵便受けに手紙を届ける。これが、わたしたちのよろこびなのです。
たとえ食べられようと、わたしたちは、とってもしあわせなのですよ」


それを聞いて、俺はひざの力が抜けてしまいました。
あつい気持ちが脳天まで突き上げ、ただ涙を流すだけしかできませんでした。


でも、俺は見つけ出したのです。郵便受けの下の、赤いハンドルを。
これをいっぱいにまわしてみたのです。すると。


ポストの中から、ちいさな郵便配達たちが飛び出してきたではありませんか。
そして、ふたたび大空へ、舞い上がって行くではありませんか。
赤いハンドルは、郵便の流れを調節するものだったのです。


「さようなら〜」「さようなら〜」
みんな、俺に笑いながら、手を振っています。
そして、どんどん見えなくなってゆきます。
ああ、なんて可愛らしいんでしょう。なんて素敵なんでしょう。
俺は、いつまでも空に向かって、手を振っていたのです。


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