海の蜃気楼

海岸にある水色の巨大岩は、まるで空のように、覆いかぶさっていた。
そしてなんと、ここの貝は、唄うのである。


潮干がりの家族が説明に困ったことから、
この貝たちが、空の類に属することが明らかになった。
歌は、青い巨大岩の天井から降ってくるのだった。


人々は、海岸に打ち寄せる波に貝を見るが、それは水面に映えた仮の姿。
砂を掻いても、掻いても、塩ばかり。


貝取り船が、逆さになって宙を飛ぶところを見た人がある。
まあるい船の底が、まるで貝の背中のようだとか。
下から見上げれば中に漕ぎ手は乗っておらず、
そこにはただ弦が張ってあったのだとか。


「それはマンドリンという楽器だよ」


声がしたときには、もう日が暮れかけていた。
手ぶらで帰る家族連れは、それでも音楽をいっぱい聴いて満足して帰って行ったという。


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