秘密の花園

近所のマンションに住むキタンさんの部屋にお邪魔したとき、
うちの家の屋根を、初めて上から見た。
知らなかったが、じつは屋上があったのだった。


そこには赤や黄色のチューリップが並び、ミニSLも走っていた。
あんなものが備え付けられてあったとは。


「おや、ご存じなかったんですか」
キタンさんは、目をまるくした。
彼は時々うちの屋上に遊びに来るのだという。
うちには、屋根に上がる階段も、はしごもない。どうやって来るんだろう。


「簡単ですよ、ほら」


キタンさんは窓からひょいと手を伸ばした。
そしてうちの屋根のアンテナをつかみ、ぐいっと家ごとこちらへ引き寄せた。
なんてことだ。信じられない。なんてことだ。


キタンさんとうちの屋根に上がり、初めてミニSLに乗った。
彼が時々メンテに来て、動くようにしてくれているのだそうだ。
気持ちよく吹き渡る風が、チューリップを揺らす。まるで夢のようだ。
花も、面倒を見てくれているのだという。申し訳ないなあ。


「なあに。こちらも楽しませてもらってますから」


帰りはまたキタンさんが彼の窓枠に手を伸ばし、ぐいっと力を入れる。
うちの家がかしいで、彼のマンションに引き寄せられる。
「また遊びたかったら、うちに来てください」
キタンさんは、さわやかな笑顔でそう言ってくれた。


でも、ちょっと複雑だ。
あれ、実際、うちの家の屋根なんだけどなあ。


にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ