「にゃる」の気配
家の近くに、お寺を見つける。
散歩コースからはずれたところに、意外な発見をするのは楽しいものだ。
お参りしたあと、長い石段を降りる。
石段の途中、脇には公園があって、小学生くらいの女の子がいっぱいだ。
下からも、続々と女の子が上がってくる。
ハッと、自分の精神年齢が、この子たちと同じくらいなのではないかという気がした。
女性の方が、男より生活観念がしっかりしてるしな。
もうすでに、子供の頃から女性はどこか、ませている。
なんだかガックリした気分でアパートに帰宅。
部屋着に着替えていると、いきなり玄関のドアが開いて、カーリーヘアの女性が顔をのぞかせた。
「ここ、島田さんですか」
郵便局のものらしい制服を着たその女性は、なんとも色気のある目つきをしている。
40〜50代だろうか。でも、妙に若作りをしていて、実際、パッと見で若くも見える感じだ。
手には、スーパーのビニール袋を提げている。これを配達に来たのか。
パンツ一丁のまま、あわててドアを閉めに行く。ここには島田さんはいませんよ。
女性は体を半分、ドアのこっちへ入れた体勢。
足で、玄関の靴を蹴りながら、ひとこと捨てゼリフのように言う。
「本当かしら。この 『にゃる』 な靴はなんなのよ」
解説しよう。「にゃる」とは、この女性の造語で、「ギャル」を指すらしい。
実際、玄関の靴脱ぎには女物の靴が2、3足、揃えて脱いである。
でも、この部屋に女性は住んでいない。
やっとのことでドアを閉めるが、ロックするツメがゆるゆるになっていた。
手を離すと勝手に開いてしまう。
覗き穴から覗くと、配達女がゆっくりと立ち去るところだった。
自分が見ているのが分かっているようだ。こうして見ると、若い娘のようにも見える。
女はこっちを艶っぽい目で見ながら、顔だけこっちへ向けたまま、すーっと視界から消えた。