船は、船の中で

身動きも出来ず寝転がったまま、会社を出る。
世界中の全てを愛してやりたいが、このままどうなるものか。
まるで船の中のように、あたりにあるすべてが板切れで出来ている。


板切れのすき間から、ちいさな花が顔を出した。
どこへも行けないのは同じだが、風に揺れるだけまだ上等だ。
自分の体も、まわりと同じく板切れで出来ている。
寝転がったまま、船底のコンビニへ。
すべてが、ぎしぎしと柔らかくきしみながら、ゆっくりと呼吸している。


花が、トランプをしようと言ってくる。
棚には、大小さまざまなボルトが並んでいる。
もうさんざん穴は開けまくり、あちこちボルトとナットで締めまくってある。
これ以上ボルトは必要ないのに、ついここへ来てしまう。
よし。ボルトはやめて、トランプにしよう。


板でできたトランプは、チェスボードの上に並ぶ。
自分はその一枚になって、今だけは動き回れる。
カードを動かすのは、花だ。
勝つのも負けるのも、自分だ。


自由は無い。
自由は無いが、船底のコンビニで、ボルトを眺めているよりはましだ。


ああ、ずっとましだ。
ここなら、船の外の潮風を嗅ぐことが出来る。
ずっと昔、花のように自分が地面から生えていた昔が、思い出されるようだ。


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