幾何学の果てに

夜の国道を、おばあさんがふたり走ってくる。
西と東両方から斜めに直進し、エックス字に交差し、そして視界から消えた。


つぎは四人のおばあさんが走る。
今度は米の字に交差する。ウサギやタヌキたちが、道の脇から見物している。


おばあさんは、次第に複雑な幾何学図形を描くようになる。
どんどん数が増え、雪の結晶のような軌跡をきらきらさせる。
こうして、蜘蛛が巣をつくるように、おばあさんは宇宙を編んでゆくのだ。


マンデルブロートのフラクタル図形が完成した。
大きなおばあさんの中に、ちいさなおばあさんが無数に入りこんで、
おばあさんの宇宙を形成している。
どこを覗いても、おばあさん。おばあさんはもう、走る必要はない。
ここに、おばあさんのすべては結晶したのだ。


なんだかもう気持ち悪くなってしまって、道路に吐いてしまった。
ウサギやタヌキが背中をさすってくれる。
ありがとう、動物たちよ。
これは、なにかの呪いにちがいない。


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