正義の闘い

旅館に遅く帰ってきてしまったので、風呂もぎりぎりだ。
脱衣場に入ると、けっこう込んでいるようで、服がたくさん脱いである。


ガラスの引き戸を開けると、それほど広くも無い浴場は、やはり混雑していた。
桃太郎、犬、猿、キジ、それに鬼。
全員が湯船にぎゅうぎゅうに入って、闘っている最中だ。
それぞれ両手を握り合わせて、さかんに水鉄砲をかけあっている。迷惑な。


湯船につかるのはあきらめて、洗うだけで出ようと思う。
頭を洗っていると、背中にバシャッと冷水がかかった。殺意がわく。
やつらは、洗い場に戦場を移したようだ。


しばらくのあいだ、バッシャ、バッシャ、と背中で水の音がしていた。
落着いて洗っていられない。
堪忍袋の緒が切れ、怒鳴りつけてやろうと立ち上がると、鬼が出て行くところだった。
桃太郎たちが勝ったらしい。


「ご協力ありがとうございました。これで、鬼が退治できました」


桃太郎たちが、にこやかにあいさつしてゆく。
鬼が分捕っていた灰皿やらハンガーやら湯のみやらを、
旅館を経営するおじいさんたちに返してやるのだとか。
正義のためなら、しょうがないだろう。
勝ててよかったですね、と一行をねぎらってやった。


風呂上りにジュースを買いに行くと、卓球場でまた戦いが繰り広げられていた。
桃太郎、犬、猿、キジ vs 鬼。
鬼はひとりでラケットをふりまわし、4人を相手に結構な善戦。
ていうか、桃太郎たち、卓球下手すぎ。


こいつら、昔からずうっとこんな感じだったんだろうな。
寝るときは絶対、枕投げになる。
部屋は離れたところに移してもらったほうがよさそうだ。


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