帰ってきた夕陽

なんだかがっくりとした気分で、浜辺へ来た。
海は一面に灰色で、空はそれと対照的に、鮮やかなオレンジ色。
夕陽も無いのに、この無駄な鮮やかさはなんなんだ。海を見習え。


とんでもなく投げやりになった自分は、左腕をちぎると、海へ投げた。
灰色の海はまるでゴムのようで、ちぎれた左腕は、海面をぴょんぴょんと跳んだ。
そして飛び石のように弧を描きながら、水平線の向こうへ消えた。


哀しい気持ちに弾みがついてしまい、左足も投げる。
右足を投げ、頭を投げ、胴体を投げ、みんなぴょんぴょん跳んで消えてしまった。
最後に、右手を投げる。これで、おしまい。


なんにも無くなって、ただ浜辺にたたずむ。
ささーん。ささーん。と、自分が砂浜に打ち寄せる。
さらさらと、自分が波に持っていかれる。これでいいんだ。


水平線の向こうから、真っ赤な夕陽が昇ってきた。やっぱりいたんじゃないか。
そして、自分も、帰ってきた。夕陽と一緒に。
今はすっかり色を取り戻した海の上を、自分が三段跳びで走ってくる。


にこにこといっぱいの笑顔で笑いながら、
その姿は、どんどん大きくなってせまってくる。


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