ぶくぶく

ざんざん降りの墓場で、大男に組み伏せられてしまった。
「ふふふ。ここがお前の死に場所だ」
短剣を取り出し、太い腕で突き立ててくる。


負けるもんか。その腕を両手でしっかとつかみ、握り締める。
剣は目の前。渾身の力で、雑巾をしぼるようにして、男の手を締め付ける。
ぽたり、ぽたり、と男の手から雨のしずくが、顔に落ちてくる。


ぐいぐい絞めているうち、だんだんとしずくが灰色になってきた。
男が、しぼられているのだ。これは、この大男の腕から出た汁なのだ。
手をちょっとゆるめてやると、男の手が雨を吸うのが分かる。
ぐいっと絞めて、じゅわっと吸わせる。いいですか。ぐいっ、で、じゅわっ、です。


こうしてしばらくしぼりつづけていると、荒くれ者の大男はおとなしくなってきた。
腕からだんだんと肩へ、もう一方の腕へ。だんだんと男をしぼっていく。
両脚、頭、そして胴体。大男は、いまや雨を吸ってぶくぶくになっている。
もうこれは、人間ではなくて、水分の固まりです。いいですか。
ぐいっ、で、じゅわっ、です。いいですか。


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