絶体絶命人生

逃げ込んだ地下通路は、トイレになって行き止まりだ。
ひとつの個室に飛び込んでカギをかけてはみたものの、
無駄な抵抗なのは分かっている。
ドアがガンガン蹴られて、壊れそうだ。
薄い板一枚隔てて殺し屋集団がたけり狂っているのが分かる。
出て行ったら、確実に殺される。でも、それも時間の問題。
ああ、なんでこんなことになったのか。
夢なら覚めて欲しい。


・・・で、夢が覚めた。


冷たい風がほほに当たる。
目を開けると、一面大空が広がっている。外だ。
しかし、ここは鉄塔の一番上。
はるか地上には警官隊が結集し、みなこちらを見上げている。
無数のパトランプがひらめいて、まぶしい。
またもや、俺は何をしでかしたのか。
カン、カン、カン、とすぐ下で鉄階段を登ってくる音。
「動くな。銃を捨てて、ゆっくり降りて来い」
この様子じゃ、逮捕されたら長い懲役になりそうだなあ。


・・・で、また目が覚めた。


ざっぱーん。塩水が鼻に入る。
板っきれにつかまってはいるものの、ほとんど立ち泳ぎだ。
もう脚も腕も疲れて、力が入らない。
波間にちらちらと見えるのは、サメのひれか。
ああ、もう記憶が・・・


・・・走っている。全力で、俺は走っている。
地下の通路は行き止まりだ。分かっている。突き当たりはトイレだ。
もう、こうして何度こんなことを繰り返したろう。
でも、俺はまだ生きている。こんな人生もあるのかもしれない。
ガンガン蹴られるドア。


もしかしたら、次に夢から覚めたら、楽園かも。