ひとはいさ
桜のトンネルが、満開だ。
いつもは通り過ぎるだけのひとびとが、今日は立ち止まって上を見上げている。
死んだようだった桜の古木たちが、こんなにいっぱいに咲くところを見ると、
どうやら死ぬものなど、この世には無いかのようだ。
そして、もうすでにこの世にいないはずの人々が、
じつはずっと今も生きているかのようだ。
このお盆のような花見の時期が過ぎれば、また死者は死者に帰る。
そして、今立ち止まったひとはまた、過去に生きるような生活を始めるだろう。
桜のトンネルの中にいると、生きているひともしんでいるひとも、
まるでどうでもよくなってくるかのようだ。