ワンセット

教会裏の墓地。
芝生の上で眠っている人が、そばに掘られた穴に生きたまま埋められるのを見た。


埋められた人は、それこそ死に物狂いで土をはねのけ、飛び出してくる。
そりゃそうだろう。


一息ついたあと、そのひとは、墓のそばに据えられた食卓につく。
そしてとても満足そうにごはんを食べるのだ。生きるよろこびを噛みしめるように。
ごはんを食べたあとで眠りにつくと、そのひとはまた埋められる。


「このひとの人生は、こういうふうなのです。
墓の外にいるのと、土中に埋まっているのとで、ワンセットなのですよ」
牧師がいう。


そんなばかな。
これは、ただの生き埋めじゃないか。
こんな非常識なこと、許されるもんか。


そう思い、寝ている人を埋めにかかった墓掘りたちをなぎたおし、
あわれなとらわれびとを救出した。
これで、このひとはずっと生きていられるんだ。


その人はしばらくすやすやと寝ていたが、じき目を覚ました。
そして、自分が墓に入っていないことを知ると、半狂乱になった。
何を言っても、聞こえない。
そのひとは、のどをかきむしるようなしぐさをしたかと思うと、白目をむいた。
駆け寄って体にさわると、硬直して、やがて動かなくなった。


「もう駄目ですよ」


いつのまにかうしろに立っていた牧師が言った。
「もう埋めても、このひとは生き返りません」


墓掘り人たちは、なきがらを丁寧に棺桶におさめ、釘でうちつけて土中に埋めた。
そして、テーブルを片付けにかかった。
本当に、このひとの人生は終わってしまったらしい。


「ふたつでワンセットだと言ったでしょう。
目の前に見えている出来事だけですべてだと思ったら、大間違いなのですよ」
牧師はそう言い、礼拝堂の方へ帰って行った。


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