少年時代
ヤスオは、ひとり川ぶちに立って、水面に石を投げ込んでいた。
学校がつらくなると、ヤスオはいつもここへ来る。
向こう岸に見える工場の煙突は、いつもまっくろな煙を吐いていた。
どろりとにごった川底は、ヤスオの鬱屈したこころにぴったりくるように思われた。
工業地帯に流れるこんな川には、釣り人なんかひとりも来やしない。
いるのは、半魚人ぐらいのものだ。
「いてえな」
おでこに大きなたんこぶをつくり、半魚人が怒っている。
ヤスオの石がきれいに命中したのだ。
「ごめんなさい」
もう日が暮れる。
空気がにごっていると、なぜあんなにも夕焼けがきれいなんだろう。
今日学校をさぼったから、家には帰りにくいな。
かあちゃん、ご飯をつくって待ってるだろうな。
川向こうの工場も、仕事を終えた。労働者たちが三々五々帰ってゆく。
こんな川辺にいつまでも残っているのは、ヤスオと、半魚人ぐらいのものだ。
「いてえな」
二個目のたんこぶをこさえて、半魚人が怒っている。
またヤスオの投げた石が、きれいに命中したのだ。
「ごめんなさい」
ヤスオの少年時代は、そんなだった。
どぶ川、工場、怒る半魚人、真っ赤な夕焼け。
すべてが、今は色あせて、なんだか鍋の底の煮こごりみたいになっている。