2008-04-29から1日間の記事一覧

砂漠の豆腐屋

もうふらふらだ。一歩も歩けない。 どこまで行けば、この砂漠は終わるのだろう。 水も食べ物も、もう長いこと口にしていない。 このまま砂漠が続くなら、自分の命はじきについえるだろう。 ゆらゆらとゆらめくかげろうの中から、人影が現れた。 ごましお頭に…

におい

曇っていた空から太陽が顔をのぞかせ、 目の前が明るくなった。 ふいっと、景色が違うものに見えていることに気がつく。 モノクロとカラーぐらいの違いだ。あらゆるものの色彩が、 ぐっとこちらにひしめくようにしてせまってくる。 これは、あの夏休み、田舎…

蓄積されたもの

死神が現れて、言った。 「おまえ、明日死ぬからな」 そんな未来のことがわかるもんか、と言い返すと、 死神はフフンと鼻で笑った。 「自分の未来のことは、俺だって知らんさ。 でも、お前の明日は分かる。全部、過去の記録そのまんまだからだ」 ・・・それ…

少年時代

ヤスオは、ひとり川ぶちに立って、水面に石を投げ込んでいた。 学校がつらくなると、ヤスオはいつもここへ来る。 向こう岸に見える工場の煙突は、いつもまっくろな煙を吐いていた。 どろりとにごった川底は、ヤスオの鬱屈したこころにぴったりくるように思わ…

ぼやけた顔

いちばん古い記憶は、幼稚園に入る前。 父と母に両方から手を引かれ、ぶら下がるようにして家に帰る、 自分のうしろ姿。 父や母の顔は、いつでもぼやけていて、思い出せなかった。 学校で父の絵を描かされたとき、憶測で描いたら、 知らないどこかよそのひと…

鮮明な記憶

目の前の景色が、くるくるとスクロールのように丸まって、地面に落ちた。 いま目の前に見えている景色は前のと同じだが、どこか雰囲気が違う。 小さいころに見た、記憶の中の、どこかなつかしい景色なのだ。 その景色をじっと見ようとすると、またそれもくる…