体をはがす

布団の中で夢を見ていると、不自由だ。
それが例えどれほどアクロバティックな話であったとしても、
肉体は床に伏したままなのだから、基本的なところで自由は利かない。
まるで寝そべる犬のブロンズのように、自分は道端に張り付いている。


しかしここに寝そべっていると、じきに車が来るだろう。
犬からすこし離れて目測すると、やはり、犬の後ろ脚のあたりが、
通る車の轍に轢かれてしまいそうだ。


「おいで、おいで」


もっと車道より離れたところから、犬を呼ぶ。
毛足の長いアフガンハウンドは、長い鼻面をふり、悲しそうな目で鳴いた。
ブロンズの犬は道に張り付いているのだから、どだい動けるわけも無い。
こりゃあ、どうしたもんかなあ。


思案に暮れて立ち上がったとき、ブロンズ犬もやっと立ち上がった。
生まれて初めて立ったのだろう。
アスファルトから前脚、後ろ足を引き剥がし、ギャン、と悲痛な声をあげながら、
犬はこちらへ転げてきた。


ぶうん、と一台のトラックが通り過ぎる。


「よくやった。よくやった」
自分は犬の頭を抱え、体を精一杯なでてやった。
無理なことをさせてすまなかったという思いでいっぱいだ。


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