立体交通
妻と一緒に、ある駅で降りる。
あたらしい家を探してここに来たわけだが、まったく不案内で途方にくれる。
見上げると高い木々の緑がいっぱいに繁っていて、住環境はよさそうだ。
しかし、交通がとても激しそう。
葉っぱの茂みのあちこちから伸びるレール。
あるものは吊り下げ式のロープウエイ、またあるものは、
レールをまたいで食い込む形のモノレール。
それらのあいだを、ジェットコースターの線路が、縫うようにして通る。
よくぶつからないものだな。
まるで遊園地のようなこのちいさな世界で、無用に発達した交通。
どのレールも、外へは延びていないようだ。
ここへ住むことになるのかなあ、と思う。
俺みたいな八方塞がりの人生にはぴったりかもしれないのだが。
一番上に見えるレールを、むこうからロープウエイがやってきた。
こちらの頭上からは、モノレールがぐいっと視界に入ってくる。
あっ、ぶつかる、と頭を抱えたが、両者はぎりぎりで何事もなくすれ違ったのだった。
「ばかね。ぶつからないように設計されているんじゃない」
妻が、こっちを見もせずに言う。
ロープウエイの車両が、腹の下を見せて頭の上を過ぎる。
女はこういうときに度胸があるものだ、と変に感心する。